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「手のひらの京」 感想・レビュー。内側から見た京都の物語

kyoto

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本の概要

京都に住む三姉妹の物語。

長女の綾香は図書館勤務で、恋愛には奥手なタイプ。30歳を過ぎ結婚への焦りがある。

次女の羽衣(うい)は大手企業の一般職・新入社員。美人で、彼氏が途切れない恋多き女。嫉妬からトラブルを巻き起こしてしまうことがよくある。

三女の凛は理系の大学院生修士2年。色恋沙汰はいままで全くなし。綺麗なのに化粧っ気がないタイプ。研究に打ち込む傍ら、就職先のことで悩む。

まったく違うキャラクターの三姉妹。

それぞれの人生を歩みながらも、夜には両親も住む同じ家に帰り、ひとつ屋根の下で眠る。

3人の成長していく様子が、京都の風情あふれる街並みとともに描かれている。

感想など

京都というと、東京に住む私にとっては憧れの場所である。

整然とした大通りはかっこいいし、一本小道に入れば味のある渋くていいお店がひっそりと佇んでいて、おもしろい本屋も多い。

街中に突然現れるお寺も、漢字がずらりと並ぶ住所の表記もかっこいい。

そして、好きなミュージシャン・くるりの本拠地でもある。

そんなに頻繁に行くわけではないけれど、京都が好きな理由はいくらでもあるのだ。

そんなふうに「京都大好き~憧れ~」という気持ちを抱いていたけれど、

この小説を読んで、私が好きだ!と思っていたのはあくまで「外側から見た京都」だったのだと知った。

小説に描かれている「京都」には、京都のダークでビターな側面、閉鎖的な雰囲気や遠まわしな嫌味を言うねちねちした意地悪い人物なども出てきて、これがリアルな、住む人が知る京都なのだと気づかされた。

それを知って京都が嫌になる、ということは全くないのだけれど、観光として行くだけでは決して気づけない側面を知ることができたのは貴重だったと思う。

自分のなかの「京都」のイメージが、より深く、立体的になった。

もちろん、小説では京都の良き面も多々描かれている。

お祭りに行ったり、着物を着ておでかけしたり、「住職と合コンして~」みたいな話が出てきたり。

日本の家庭料理、四季折々の花などがこの小説の彩りとなっていて、鮮やかな情景が浮かぶ場面がたくさん描かれていた。

京都弁もかわいくって、東京人からするとかなり萌える。

「居ない」のことを「いーひん」って言うのとか。

魅力的な京都の雰囲気を文章で味わうだけでも楽しい読書体験だったが、

三姉妹の恋愛模様やそれぞれの生活の様子も「で、どうなるの・・・!?」と、どんどん読み進めたくなるものだった。

羽衣ちゃんの破天荒キャラが読んでいて一番面白く、すかっとした。

三姉妹のなかで一番羨ましがられやすいのは羽衣ちゃんだと思う。

けれど、彼女は彼女なりに苦労しているし、出る杭打たれる日本ではなかなか大変な生き方でもある。

逆に、長女の綾香はプロフィールだけ見ると普通で堅実な印象があるけれど、

彼女なりに淡々と楽しく生活しているように見えた。

終盤では良い恋をしているようでしたし!

見た目や、聞きかじりのプロフィールだけでは、その人を判断することなんてできない。

これは「地名」にも言えることだなと思って、

京都というと、もうとにかく良いイメージで脳内が埋め尽くされていたけれど、

実はそうでもない面もあるよ、とこの小説で知った。

逆に、マイナーな土地には「なにもない」というイメージを抱きがちだけれど、

まあ実際住んでみないとわからないよなと最近よく思う。

遊びに行くのに適した土地と、住むのに適した土地があるし。

実際、田舎でも「なにもない」ってことはない。

美味しい野菜や水があり、豊かな自然があり、物価が安いということも大いなる魅力だと思う。

よく知りもしないのに勝手にイメージを作り上げて、そう思い込むよりは、

知らないものに対してニュートラルな姿勢で向き合えるといいなと思う。

人も土地も完全に理解することはできない。

内側を知っているのは自分だけだし、その土地に住む人だけだ。

この三姉妹同士だってお互いの事情をわかりあっている訳ではない。

詳しく話さないことだってある。

それでも、家族で他愛のない話をしたり、四季の行事を共にしているうちに、

なんとなく忘れて、癒されて、明るい気持ちになれたりするんだよね。

小説のなかの家族、三姉妹を見ていて、めんどくさいことも含めて家族は愛おしいなあと思った。