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驚くほど繊細な目線で日常を見つめつつ、文体は力強くテンポの良い文章で、読んでいてすがすがしい気持ちになれるエッセイ集でした。
これは素晴らしい、これはひどい、全面的に支持する…などなど、好き嫌いをはっきりと述べている感じがかっこいいです。曖昧な表現が少なかったような。
縁日の射的で小さな標的、たとえばマッチ箱のようなものを、次々と撃ち抜いていくような、思い切りの良さと職人的な細かさがありました。
そんな細かいところも気にしてるんだ~、私は全然気にしてなかった。。とか、
こんなささいなことにも面白い!と、気づける感性がステキ。と思ったりしました。
おかしさをキャッチする力の凄まじい高さ、憧れます。
特に好きだったのは以下の5つのエッセイです。
目次(タップした項目に飛べます)
おかえりティモテ
「ティモテ」というシャンプーにまつわる話。外国語表記で「Timotei」と書くことを知って以来、それが「ティモ帝」に見えて仕方なくなってしまった著者。ティモ帝という架空の帝王の話を妄想でもくもくと繰り広げてらっしゃって、その話の広がりにすごい…!と思いました。「ティモテ」はAmazonですぐポチりました。ひかえめな甘い香りがちょうどよく使い心地もグーです。気に入ったシャンプーも見つかり一石二鳥でした。
アイラブ三代目
ほんっとにおもしろかったです。一番笑わせていただきました!ある箱根のホテルの創業者(三代目)の本気が狂気的で、逆におもしろいです。狙ってないのに面白い、得なお方です三代目。
また、ダイニングルームには、柱という柱の足下のあたりに、デフォルメされた、ものすごく怖い男の顏が彫り込まれている。これは、気を抜いて働くんじゃないぞ、見張っているぞ、という従業員への喝の意を込めて、三代目が彫らせたらしい。しかし、結果として、宿泊客も怖い顔に見張られながら食事をすることになっているのだが、三代目はそれには気づかなかったのだろうか。怖い顔ににらまれ食事をしながら、私はすっかり三代目に、富士屋ホテルにメロメロだった。
ウォルト・ディズニーがいかに狂気をはらんでいたか、最近では本なども出版されて私たちの知るところでもあるが、ホテルやテーマパークを創造する人というのは、ちょっと狂っているほうが、後々まで残る素敵なものをつくるのではないだろうか。と、チャップリンの横に並んで写っている三代目の写真を見ながら、しみじみと思った。ひげのせいで、普段着のチャップリンより完全に変な人だ。
各駅停車のパン事件
電車に乗っていたら「パンがホームに落ちた」という理由で電車が 一時止まってしまった、というお話。電車が止まるというと不吉なイメージが湧いてしまいますが、その原因が「パン」ということで車内の雰囲気がやわらかなものになったのだとか。日常のちょっとした気の張りが「パン」によってほどけていく様子を読んでいるのが心地よかったです。
日常の横顔
著者は、自動販売機の「準備中」が「発売中」に切り替わる瞬間や、マクドナルドの「夜マック」から「朝マック」へメニューボードが変わる瞬間が好きなのだという。お店の電灯がパッとついたり、消える瞬間なども。なにかが変わる瞬間を見られた!ということに大きな喜びを感じるらしいです。
この感覚に私もとても共感しました。
なぜこの感覚が好きなのか?という考察もおもしろくて、
いつも表向きの顏を保ってお店を回すためにはどうしても横顔を見せないといけない一瞬があって、できるだけ目立たないようにそれは行われているんだけど、たまたま目にしてしまった感じだろうか。そして無数の横顔の積み重ねで表向きの顏は保たれているのだということを、あっ、そうだった、と思い出させてくれるから好きなのかもしれない。一瞬我に返る感覚だ。
この考察を読んだ時に、目の前がぱっと明るくなるような、つっかえていたものがストンと落ちていくような感覚がありました。ふとしたときに垣間見える「完璧ではないさま」に親近感をおぼえる感覚でしょうか。「情熱大陸」でスターのオフ姿を見たときのような。
大人のガチャガチャデビュー(白鳥狂想曲第一章)
マシュー・ボーンのミュージカル「SWAN LAKE」を鑑賞したときの様子が綴られていました。鑑賞前から鑑賞後まで、興奮の熱量がすさまじいことが文章から伝わってきて引き込まれました。白い紙に黒い文字が載っているだけなのに、そのエネルギーたるや写真や映像をも凌駕するほどです。私は普段ミュージカルをあまり見ないのですが、この文章を読んで、作品によってはミュージカルも鑑賞してみたいと思いました。
以上5つが特におもしろかったです。
もちろん全体を通してもおもしろく、全く飽きることなく1冊読み終えました。
全体として自立したかっこいい女性が描かれていて、テイラー・スウィフトに始まり、テイラー・スウィフトに終わったのが象徴的でした。
洋画や洋楽のお話も多数載っているので、趣味が合う方は更に楽しめるはずです。
松田青子さんの小説も好きです。